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「殺到」なのに「不安」?松本人志さん報道に見る、上げて落とすニュースの構造

「殺到」なのに「不安」?松本人志さん報道に見る、上げて落とすニュースの構造

🌀 登録者が“殺到”してるのに、なぜ“心配”?

AERA Digitalさんの記事タイトル、見てみましょう。

「DOWNTOWN+登録者殺到で逆に不安視される松本人志の『期待値上がりすぎて失敗』の前歴」

登録者が“殺到”してるのに、“逆に不安”?

すごい。わずか一文でジェットコースター。

前半で「盛り上がってる!」と上げ、後半で「でも危ないかも」で落とす。

これ、ニュース記事ではよくある“お約束”構文です。

SmokeOutではこれを「反転見出し(Inverted Framing)」と呼びます。

「上がる」話を「落とす」ことで、ニュースに“物語性”を足す。

「記者は、推測や未検証の主張を事実として提示してはならない。」

UNESCO『Journalism, “Fake News” & Disinformation』(2018)


💡 「前歴」という魔法のレッテル

「ひろゆき氏は『有料は修羅の道』と指摘」

「岡田斗司夫氏も『感性がズレてるのが分かってフェイドアウトして別の場に行く』と松本の未来を予想している」

「確かに松本に関しては、これまでも期待値が上がりすぎて“失敗”した過去がある。」「確かに松本に関しては、これまでも期待値が上がりすぎて“失敗”した過去がある。」

“前歴”って、不思議な言葉です。

犯罪でもないのに、「またやるんじゃ?」という空気を運んでくる。

そしてその後、過去の番組を時系列で列挙。

「『ごっつええ感じ』が終了した後の打ち切り連発期が最初の低迷期」

「『ものごっつええ感じスペシャル』では視聴率9%台」

「映画『大日本人』『さや侍』『R100』は右肩下がりで黒歴史認定」

「失敗を繰り返す人物」として再構成されていきます。

でも、よく考えてみると——

誰だって「過去に上手くいかなかったこと」くらいある。

それを“前歴”と呼ばれたら、人生の履歴書が真っ黒になってしまう。

「前歴」という一語で、人の歩みを“反復する失敗”にしてしまう。

これも報道のレトリックのひとつなんです。


🎞 「黒歴史」「低迷期」——ドラマの脚本みたいな語彙

「世間からは黒歴史認定されている。」

「ここが2度目の低迷期と言われています。」

この2行だけで、人の人生がドラマの第1章〜第2章みたいに仕立てられてしまう。

分かりやすいけど、ちょっと怖いですよね。

SmokeOutでは、こういう語を「固定化語彙(Fixative Labeling)」と呼びます。

「黒」「低迷」「失敗」といった言葉を置くだけで、“再評価”という未来が閉じてしまうんです。


🧠 “期待値”という記事の燃料

記事のタイトルにも出てきた「期待値」。

この言葉、ほんと便利です。

「常に勝ち続けてきたわけではない松本だが、今回の逆境は過去最大レベルかもしれない。」

「そのぶん期待値もふくらんでおり、成否が注目される。」

上げても、下げても、全部“期待のせい”にできる。

成功したら「期待に応えた」、

失敗したら「期待が高すぎた」。

つまり、どっちに転んでも記事が書ける。

——ちょっとズルいけど、上手い構文です。

「ジャーナリズムは排除ではなく、理解と包摂に寄与すべきである。」

UNESCO『Global Principles for Ethical Journalism』(2023)

未来予告型レトリック


🌱 まとめ:挑戦を「前歴」にしないために

✓ 「前歴」という言葉が、人を“繰り返す失敗”に見せる

✓ 「黒歴史」「低迷期」は、挑戦を“終わった物語”に変える

✓ 「期待」と「不安」は、ニュースをドラマに仕立てる燃料

でも、よく考えてみれば——

挑戦しなければ、失敗なんて存在しない。

新しいことに挑む人だけが、「前歴」と呼ばれるリスクを背負う。

ニュースが語るべきは、“また失敗するかもしれない人”ではなく、“また挑戦している人”の方かもしれません。

SmokeOutは、失敗を恐れず挑む人たちが安心して語られる世界を願っています。

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